不妊症治療に使う漢方薬とは?婦人科専門クリニック以外の妊活

この記事の監修者
片山智子
漢方薬なごみ堂 / 漢方薬剤師
片山 智子
東京・横浜・札幌などで漢方薬の経験を積んで参りました。 女性薬剤師として、女性ならではのデリケートなお悩みをご相談ください。お身体の状態をよく伺った上で、あなたに合った漢方薬をご提案させていただきます。 なかなか相談できない…などと一人で悩まずに、一度ぜひご来店ください。

「不妊みたいだから漢方薬、飲んでみようかな?」
「不妊の原因によって飲む漢方薬って違うの?」
と悩んでいる方もいるのでは、ないでしょうか。

漢方では人の身体は、「気」「血」「水」という3要素からできていると考えます。3つの中で、妊娠によく関係しているのは気と血です気や血が不足気味になると妊娠力も弱まり、不妊になってしまうのです。

この記事では、不妊と漢方について、不妊の原因と漢方薬について、解説します。この記事を読むと、不妊で使う漢方薬についての理解が深まります。

 

不妊症とは?

ここでは、不妊症について解説します。

不妊症とは

不妊症とは、治療をしないと、自然に妊娠する可能性がほとんどない状態のことです。

 

日本産婦人科学会では、不妊を「妊娠を望む健康な男女が避妊をせず、性交しても、1年以上妊娠しない状態」と定義しています。しかし米国生殖医学会では、「女性が35歳以上の場合、6か月の不妊期間があれば、検査を始めることは認められる」と提唱しています。

 

このため日本でも年齢が高い場合は、不妊期間が1年未満でも、なるべく早く検査や治療を始めた方がよいという考え方が一般的です。

「参考:日本生殖医学会|Q2.不妊症とはどういうものですか?

不妊症の原因

不妊症の原因は、男性か女性の一方、もしくは両方の場合がありますが、どちらにもない不明の場合もあります。原因の内訳は、男女ほぼ半々と言われています。

以下に、男女別に不妊症の原因で多いものをあげてみました。

男性不妊症の原因で多いもの女性不妊症の原因で多いもの
  • 造精機能障害
  • 排卵の異常
  • 卵管のつまり
  • 精子を障害する抗体を産生している

 

男性不妊症の原因はほとんどの症例で造精機能障害であり、そのうちこの造精機能障害がどうして発生したのか分からない、特発性造精機能障害が7割を占めています。造精機能障害になると、精子の運動率と量に問題がでてきます。

 

基礎体温測定は女性の「排卵の異常」を知るのにいい方法です。月経周期が25~38日、基礎体温が二相性であれば心配いりませんが、これにあてはまらない場合は排卵障害の可能性があります。過去に性器クラミジア感染症にかかったことがある人や子宮内膜症の患者の中に、卵管周囲の癒着が起きている場合があるので、注意してください。

 

「参考:J-stage|男性不妊についての国内文献の収集分析

「参考:日本生殖医学会|Q4.不妊症の原因にはどういうものがありますか?

 

不妊症と漢方について

漢方では人体は、「気」「血」「水」という3要素からできていると考えます。「気」はエネルギー、「血」は血液、「水」は血以外の体液を指し、「気」によって「血」と「水」は全身にめぐります。

また、内臓を五臓六腑に分けた考え方でみており、現代医学で使われる内臓とは考え方が異なります。

エネルギーや栄養分を作り出し貯える内蔵を「五臓」(肝・心・脾・肺・腎)、飲食物を消化、吸収し栄養分を運び、不要物を排泄する内蔵を「六腑」(胆・小腸・胃・大腸・膀胱・三焦)として捉えています。

不妊症を漢方で考えると

3要素の中で、妊娠によく関係しているのは気と血です。結婚年齢の上がったこと、不規則な生活や過労、睡眠不足などのために、気や血が不足気味になると、妊娠力も弱まってきます。また、ストレスや冷えなどが原因で、気血水の巡りが滞ってしまうことも不妊症の原因になりえます。

漢方薬の選び方

不妊症に使う漢方薬には多くの種類があります。それは、漢方では不妊症の原因や体質によって、改善の仕方が違うからです。自分の状況に合った漢方薬を選ぶことが大切です。

 

漢方薬は「生薬」と呼ばれる、自然のものでできていますが、特に妊娠初期には慎重に使わないといけないものもあります。例えば桂枝茯苓丸は月経不順に使用する場合もありますが、血流改善の働きが強いので、妊娠が判明し次第、中止します。他にも香りが強いものや刺激が強いものなども控えなければなりません。

 

自分に合った漢方薬を飲むために、専門家による時間をかけた相談やカウンセリングが必要です。それと同時に日常生活のアドバイスを受けることをおすすめします。

不妊症の原因と漢方薬

漢方でみた不妊症の原因と、それに処方する漢方薬の例を説明します。

腎虚(じんきょ):卵巣が働かず妊娠力が低下している

腎はいわゆる、臓器の「腎臓」ではなく、両親から受け継いだ、生まれつき持っている生命力、「泌尿・生殖器系の臓器」を意味しています。 腎精(腎の気)は、加齢により少しずつ減り、腎虚が生じると考えられています。

「参考:大阪大学大学院医学研究科先進融合医学共同研究講座|腎虚とは

女性ホルモンや卵巣機能の低下が20代に始まるのも、腎精(腎の気)が減少するからです。腎虚が進むと、質の良い卵子が育ちにくい、卵子にとって居心地の良い子宮状態にならないなど妊娠しにくくなり、不妊の原因になります。

腎の衰えを止めることは不可能ですが、漢方の養生や補腎の考え方で、加齢の速度を遅らせれば、妊娠力を高めることができると考えられています。加齢ばかりではなく、睡眠不足や栄養バランスの取れていない食事など生活習慣の乱れ、精神的なストレスなどで若くても腎虚の人が増えているようです。

漢方薬には、腎精を補う、卵巣の働きを助けるものとして、以下のようなものがあります。

 

  • 六味地黄丸(ろくみじおうがん)
  • 八味地黄丸(はちみじおうがん)
  • 杞菊地黄丸(こぎくじおうがん)

 

これらは漢方薬の中でも、補腎薬と呼ばれています。

 

気血両虚(きけつりょうきょ):子宮や卵巣への栄養が不十分

妊娠に至るには、栄養のある良質な血をしっかり子宮や卵巣へ送る必要があります。そのため、血と気が満ちていなければなりません

 

気血が消耗した状態の「気血両虚」では、子宮や卵巣への栄養が乏しく、子宮内膜が薄くて着床しづらい、良質な卵子が発育しにくい、など妊娠しない状態になってしまう可能性があります。検査値では貧血ではなくとも漢方的にいうと血が不足していたり、過激なダイエットのために気血不足だったりして、妊娠しにくい体質の女性も少なくありません。

 

漢方薬には、質の良い気血を補い、子宮や卵巣の働きを助けるものとして、以下のものがあります。

 

  • 婦宝当帰膠(ふほうとうきこう)
  • 十全大補湯(じゅうぜんだいほとう)

 

これらは漢方薬の中でも、補気補血薬と呼ばれています。

 

瘀血(おけつ):子宮や卵巣への血液が滞る

瘀血とは、卵巣や子宮、骨盤内へ良質な血が届きにくく、古い血液や残りかすがたまっている状態のことです。生理痛や下半身の冷え性をはじめ、子宮内膜症や子宮筋腫などの婦人科疾患を持つのは、血瘀の女性に多いと言われ、不妊の原因になる可能性もあります。

 

漢方薬には、血の巡りを整え古いものを取り除く処方として、以下のものがあります。

 

  • 芎帰調血飲(きゅうきちょうけついん)
  • 折衝飲(せっしょういん)

 

これらは漢方薬の中でも、活血薬と呼ばれています。

 

ほかにも、ストレスや疲労によって気が滞る「肝気鬱結(かんきうっけつ)」が起きたり、余分な老廃物がたまる「痰湿(たんしつ)」によって多嚢胞性卵巣症候群(たのうほうせいらんそうしょうこうぐん)(PCOS)や子宮筋腫などの婦人科疾患を発症したりして、不妊になる場合もあります。

まとめ|不妊症治療に使う漢方薬とは?婦人科専門クリニック以外の妊活

不妊症と漢方について、不妊症の原因と漢方薬について、解説してきました。人体は「気」「血」「水」という3要素からできていると漢方では考えますが、その中で気や血が不足気味になると妊娠力も弱まり、不妊になってしまいます。漢方薬の特徴としては、医師の診療を受ける西洋医学のタイミング法や人工授精、体外受精などと併用しても、流産しにくく有効で、効果を期待できることもあげられます。

不妊症を改善するために、補腎薬や補気補血薬、活血薬などの漢方薬を使いますが、自身に合った漢方薬を飲むためには、専門家による時間をかけた漢方相談やカウンセリングが必要です。漢方薬で妊活を検討している場合は、漢方薬局の薬剤師に相談しましょう