6Jul
多汗症とは?汗をかきすぎるのは体質だけではない
多汗症とは、気温の高さや運動の有無に関わらず、体が「必要以上の汗」を出してしまう状態のことです。
日常生活や社会生活にブレーキがかかってしまうほどの過剰な発汗は、「多汗症」として治療対象となる疾患(病気)です。
実際、汗が出る部位によって以下のような深刻な悩みに繋がっています。
手汗: 書類やスマートフォンが濡れて操作できない。人と握手をするのがためらわれる。
脇汗: 服にクッキリと汗染みができてしまい、グレーやブルーなど着たい色の服が着られない。
顔汗・頭汗: メイクがすぐに落ちてしまう。人と対面で話しているときに視線が気になり、焦ってさらに汗が噴き出す。
全身の汗: 少し動いただけで服が色が変わるほど濡れてしまい、着替えが手放せない。
「たかが汗くらいで病院や漢方薬局に行くなんて大げさだ」と、一人で抱え込んでしまう方はとても多いです。しかし、「本人が精神的・肉体的に大きな苦痛を感じている」のであれば、それは立派なSOSのサインです。我慢して耐えるものではなく、適切なケアで治療していくべきものなのです。
特に、春先から夏にかけての「これから本格的に暑くなる季節」は、多汗症の方にとってつらい時期です。
なぜ自分だけこんなに発汗してしまうのだろうという周囲とのギャップに、精神的なストレスも一段と強まりやすい季節です。

多汗症の主な症状と種類
多汗症は、汗が出る「部位」や「タイミング」によって、いくつか種類が分かれます。漢方では、この「どこから・どんな風に汗が出るか」が体質を見極める重要なヒントになります。
手掌多汗症(しゅしょうたかんしょう)
手汗。ノートがふやける、PCのマウスが滑るなど。
腋窩多汗症(えきかたかんしょう)
脇汗。下着を通り越して上着まで染みてしまう。
頭部・顔面多汗症
顔や頭からの汗。メイクがすぐ落ちる、食事中に滝のように汗が流れる。
全身性多汗症
特定の部位ではなく、全身の毛穴から常にじっとりと、あるいは大量に汗が出る。
寝汗(盗汗:とうかん)
睡眠中にかくだけでなく、朝起きた時にパジャマやシーツがぐっしょり濡れている状態。
多汗症の原因とは?
現代医学(西洋医学)において、多汗症の原因は主に以下のように考えられています。
自律神経の乱れ(交感神経の過緊張)
精神的なストレス・極度の緊張
ホルモンバランスの急激な変化(更年期など)
肥満による体温調節の負担
甲状腺機能亢進症(バセドウ病)などの病気
病院では異常なし…それでも汗が止まらない理由
「血液検査もした、甲状腺も異常なし。お医者さんには『自律神経の乱れですね、気にしすぎないで』と言われたけれど、現に汗が止まらない」
なぜ検査で異常が出ないのか? それは西洋医学の検査が「臓器に明らかな形の異常があるか」「数値が基準値を超えているか」を見るものだからです。
一方、漢方は「数値に表れない『体の機能の過敏さ』や『アクセルとブレーキのアンバランス』を見るのが得意です。 気候の変化への弱さ、ため込んだストレス、体の冷却水の不足(陰虚)。これら「体質の偏り」が、異常な発汗の原因と考えます。
漢方で考える多汗症の原因
漢方では、汗を「ただの水」ではなく、生命エネルギーである「気(き)」や、体を潤す「津液(しんえき)」と深く結びついたものと考えます。
大きく分けて、多汗症の方の多くには以下の4つの体質タイプがあります。
| タイプ | 状態のイメージ | 主な特徴 |
| ①衛気虚 (えいききょ) | 毛穴の「ドア」が開きっぱなし | ・疲れやすい、だるい ・動くとすぐ汗が出る ・汗をかいた後、さらにグッたりする |
| ② 陰虚火旺 (いんきょかおう) | 体の「ラジエーター(冷却水)」不足 | ・寝汗がひどい ・手足のほてり、口の渇きがある ・午後になると微熱っぽくのぼせる |
| ③ 気滞 (きたい) | ストレスで「発汗スイッチ」が誤作動 | ・緊張、不安を感じた瞬間にドッと出る ・手汗、脇汗、顔汗に多い ・普段からイライラやため息が多い |
| ④ 水滞 (すいたい) | 体内に溜まった「余分な水」の大洪水 | ・体が重だるい、むくみやすい ・天気が悪い日(雨や低気圧)に体調が崩れる ・じっとりとした粘り気のある汗 |
多汗症に用いられる代表的な漢方薬
黄耆建中湯(おうぎけんちゅうとう)
虚弱体質の人、寝汗や「子どもの多汗」。
皮膚のバリア機能(衛気:えき)を強化し、勝手に汗が漏れ出てくるのを防ぎます。
玉屏風散(ぎょくへいふうさん)
名前の通り体の表面に屏風を立て皮膚の防衛ラインを強固にする処方です。
加味逍遙散(かみしょうようさん)
ストレスが強い人、更年期世代の女性で発汗以外にものぼせやほてりのある方。疏肝理気の働きでイライラを鎮め、こもった熱を冷まします。
桂枝加竜骨牡蛎湯(けいしかりゅうこつぼれいとう)
些細なことでドキッとして汗が出る「緊張型多汗」の人。
白虎加人参湯(びゃっこかにんじんとう)
体の中に発生した「猛烈な過剰熱」を冷まします。
「多汗症」と一言でいっても体質に適した漢方薬は違います。
またこれらのタイプが組み合わさっている方もいらっしゃいます。
服用の際は、専門の薬剤師にご相談の上、服用を開始してください。

手汗・脇汗・顔汗で漢方の考え方は違う?
発汗の部位によって、体質の判断基準の一つにはなりますが、絶対的なものではありません。
大まかには以下のように考えられます。
「手汗・脇汗」に多いタイプ ⇒ 【気滞(ストレス型)】
手や脇は、交感神経(緊張の神経)の支配を強く受ける場所です。ここに汗が集中する人は、体が常に「戦闘モード」になっています。気を巡らせてリラックスさせる漢方が合いやすいです。
「顔汗・頭汗」に多いタイプ ⇒ 【熱ののぼせ型】
自然界でも温かい空気は「上」に登るように、体の中の余分な熱も、頭や顔に突き抜けます。特に「足元は冷えているのに、顔だけカッと熱くなって汗が噴き出す(冷えのぼせ)」タイプの方に多く見られます。
発汗の場所以外にも、どんな時に発汗するか、体力や年齢などによって総合的に考え、処方を選びます。
多汗症と更年期の関係
女性の場合、40代半ばを過ぎてからの多汗は「女性ホルモン(エストロゲン)の減少」が大きく関わっています。
脳の視床下部は、体温、発汗、血管の収縮拡張、自律神経などを調節しています。ホルモンが減ると、この調節が不安定となり、急な発汗、のぼせ、その後急に寒くなる、といった更年期特有の症状が出ます。
漢方では、これを「ホルモンが減ったから補充する」のではなく、「減ったなりに、体が新しいバランスで安定飛行できるように軟着陸させる」というアプローチをとります。そのため、婦人科のHRT(ホルモン補充療法)が体質的に受け入れられない、長期服用の副作用が心配、といった方によく選ばれています。
漢方薬はどのくらいで改善が期待できる?
「漢方って、何年も飲まないと効かないんでしょ?」とよく聞かれますが、多汗症に関してはそうとも限りません。
早い変化(1〜2週間)
「寝汗が減った」「イライラして汗が噴き出す回数が減った」といった自律神経系の落ち着きがでます。
根本的な定着(2〜3ヶ月)
「汗腺の過敏さが抜け、ちょっとのことでは汗をかきにくい体質に変わる」までの目安になります。
症例紹介|汗の悩みが改善したケース
営業職で周りより明らかに大汗をかいていた30代男性(水滞×熱こもりタイプ)
お悩み:外回りの営業職。元々かなりの暑がりで、夏場は駅に到着した時点でワイシャツの背中全体の色が変わるほどの大汗をかく。商談中も自分一人だけ滝のような汗が止まらず、顧客から「大丈夫ですか?」と心配されるのが苦痛で仕方がなかった。暑いので冷たい炭酸飲料やビールを毎日ガブ飲みしていた。
漢方の見立て: 冷たいものの飲み過ぎで胃腸が冷えて弱り、水分を尿としてうまく排出できない「水滞(すいたい)」の状態。行き場を失った水分が、体内にこもった熱に押し出されるようにして大量の汗となって噴き出していました。
処方: 体内の余分な熱を冷ましつつ、水の巡りを整える漢方薬を処方。同時に、冷たい飲み物を常温や温かい麦茶に変えてもらうよう生活指導を行いました。
2週間後: 「そういえば、汗のベタベタ感が減ってサラッとしてきた」と実感。
1ヶ月後: 外から冷房の効いたオフィスに入ったとき、汗が引くスピードが明らかに早くなる。体が軽くなり、日中のだるさも軽減。
3ヶ月後: 猛暑の時期でも「人並みの汗」の量に落ち着く。商談前に「また汗が出るかも」という予期不安がなくなり、自信を持って仕事に取り組めるようになった。
夜中にパジャマを2回着替えていた40代後半女性(陰虚×気滞タイプ)
お悩み: 1年前から夜間のひどい寝汗と、日中いきなり顔が熱くなるホットフラッシュに悩む。睡眠不足で日中も疲れやすく、気分がすっきりしない。
漢方の見立て: 更年期による「冷却水(陰)の枯渇」と「熱の上昇」。
処方: 体を潤して熱を引かせる漢方薬を処方。
3週間後: 朝起きた時の「ぐっしょり感」が半減。夜中に着替える回数がゼロに。
2ヶ月後: 日中の急なほてりが「うっすら温かくなる程度」に落ち着き、夜通し眠れるようになったことで肌ツヤもよくなり、元気も出てきた。
多汗症を改善するために見直したい生活習慣
漢方薬の効き目を引き上げるために、日常で以下のポイントを意識してみてください。
「湯船に浸かる」習慣をつける
シャワーだけで済ますと、汗腺がサボって「一気にドッと出す」不器用な汗腺になります。お湯に浸かってじわじわ汗をかく練習をすると、汗腺が賢くコントロールできるようになります。
カフェイン・激辛スパイスを控えめに
コーヒー、エナジードリンク、唐辛子などは、交感神経を刺激し汗腺を開かせる「発汗スイッチ」そのものです。お悩み改善中は麦茶やルイボスティーにシフトを。
「冷たいもののガブ飲み」をやめる
胃腸が冷えると、体は水分を正しくおしっこで排出できなくなり、苦し紛れに「汗」として外へ押し出そうとします。飲み物は「常温か温かいもの」が鉄則です。
首の後ろを「冷やしすぎない」
暑いからと冷房や冷却シートで首元を冷やしすぎると脳が「寒い!」と勘違いして、逆に体温を上げようと発熱・発汗指令を出してしまいます。
「吐く息」を長くする深呼吸
汗がジワッと出そうになったら、吸うのをやめて「口から細く長く息を吐き切る」ことに集中してください。息を吐くとき、人間の体は自動的に「リラックスの神経(副交感神経)」に切り替わります。
まとめ|多汗症は体質から整えることも大切です
ここまでお伝えしてきたように、多汗症による過剰な発汗は、単なる「汗っかきな体質」や「気持ちの持ちよう」ではありません。自律神経の過緊張や、体内の水分代謝・熱バランスの乱れが起きているという、警告のサインです。
西洋医学の検査で「異常なし」と言われるのは、臓器そのものに病気がないという証明であって、「対策が必要ない」という意味ではありません。数値に表れない「機能のアンバランス」こそ、漢方が最も得意とする領域です。
「なぜ汗が出るのか」の原因(気虚・陰虚・気滞・水滞)を解明し
乱れた自律神経やホルモンバランスを、本来の安定した状態へ整えます。
これからの暑い季節をビクビクしながら過ごすのではなく、ご自身の体質に向き合い、根本から汗をコントロールできる快適な毎日を取り戻してみませんか?
当薬局では、丁寧なカウンセリング(メンタル面や生活習慣のヒアリングを含む)を通じて、適切な処方をご提案いたします。まずは一度、お気軽にご相談ください
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